保護者からよく寄せられるバイリンガル子育てに関する3つの質問:HaBilNetの中村ジェニスとアニック・デハゥワーがお答えします
HaBilNetのウェブサイトは、ハーモニアス・バイリンガリズム(Harmonious Bilingualism)を支持する子育てに関心がある研究者・実践者・保護者・あらゆる方々に向けてコンテンツを提供しています。また、科学的根拠に基づいたアドバイスをご家族に提供するために、HaBilNetでは無料相談サービスも行っています。
多くのご家族は、お子さんにどんな言語能力を身につけてほしいかについてなど、はっきりとした考えをお持ちでしょう。しかし、家族のために設定したその言語目標に辿り着くまでの道のりがいかに険しいか、親はその険しさにしばしば驚かされることでしょう。自分が聞いたり話したりする言語についてどう感じるか、なぜそう感じるのかは、家族それぞれにとってことばがうまく機能する環境を作る上で重要な要素です。HaBilNet 相談室 では、親や他のご家族の方(祖父母や親戚など)が、コンサルタントに現在の状況を共有し、自分たちが言語の目標に向けてよい方向に進んでいるかどうかを話し合うことができます。相談に来たご家族は、ご自分の家庭内でのことばの使い方について、よりよい方法をHaBilNetのコンサルタントと一緒に探します。
親たちから寄せられた150件以上の相談の中で、最も多かった三つの質問と、HaBilNetコンサルタントの中村ジェニス、アニック・デハゥワーによる回答とアドバイスを簡単にまとめて紹介します。本記事は、自分のことば(自分の気持ちを一番自然に豊かに表現できることば)が「日本語」のみなさんに向けて英語から日本語に訳し、編集したものです。皆様のお役に立てれば幸いです。より詳細を知りたい、さらに質問があるなどの場合は遠慮なく ご相談をお寄せください。 日本語も含めて複数の言語での相談に対応できます。
質問1:
海外で子育てし、子どもの日本語発達を促すために、どのようにサポートできるでしょうか。
子どもの言語発達をサポートするには、言語インプットの質と量が重要な役割を果たします。お子さんに日本語を話せるようになってほしいのであれば、できる限り日本語でお子さんと話す時間を取らなくてはいけません。次のリストは毎日の習慣としてできること、おすすめの活動やストラテジーです。家族の状況に合うものを探していただくのに役に立つかもしれません。
著者
ドイツを拠点とするフリーランスの言語編集者(応用言語学修士)兼言語教師。HaBilNetのコンテンツの作成、翻訳、翻案を行っている。
Harmonious Bilingualism Network(HaBilNet)ディレクター、International Association for the Study of Child Language(国際子ども言語学会)会長。2021年3月末まで、ドイツのエアフルト大学で言語習得とバイリンガリズムの教授を務めていた。
HaBilNetのサポートメンバー兼コンサルタント。神奈川大学・外国語学部准教授。日本在住のバイリンガリズム研究者であり、英語と日本語のバイリンガル・バイリテラルの10代の子どもを持つ母親でもある。
訳
三井 晶子
カナダ・ヨーク大学言語・文学・言語学学部コースディレクター(第二言語習得学博士)。
青木 恵子
カナダ・クイーンズ大学言語・文学・文化学部准教授。
二人でウェブサイト 「日本語で育てよう!」を運営している。
例えば…
- …日本語のインプット量を最大限にするために、子どもにたくさん話しかける
- …子どもと一対一でできるだけ多くの時間を過ごす(一緒に楽しめる趣味を選ぶ、等)
- …他に日本語を話す親たちがいるプレイグループを見つける、または自分で日本語のプレイグループを始める
- …日本語が話せるベビーシッターを利用する
- …日本語を話すお友だちや日本からの留学生など、ゲストを家に招く
- …子どもたちが触って楽しめるような絵本で遊んだり、手遊び歌やわらべうた・童謡を教えたりする
- …定期的に日本語で読み聞かせをする・子どもと一緒に読むーそれを毎日の習慣にするともっといいでしょう。生後2ヶ月からごく短い絵本から始めましょう!
- …学齢期になったら、日本語の 読み書きを子どもに教える。 読み書きができることで、子どもの言語に関する知識が広がり、年齢が上がるにつれて自立して学ぶことができるようになります。
- …正月や七夕など日本の伝統や慣習を実践し、日本を少しでも家庭で再現する
- …子どもに日本の文化的な特徴の環境に触れさせる(例:新年会などの日本のイベントの参加)
- …夏休みの時などできるだけ子どもと一緒に帰国する
- …日本語の子ども向けの番組、ビデオなどを見せたり、一緒に見たりする(ただし、画面の視聴は小さいお子さんにはあまりよくない ので、2歳未満のお子さんにはおすすめしていません。)
- …日本にいる祖父母や親戚と ビデオ通話をする。 彼らの協力によって日本語のインプットを更に増やすことができます。中には、デジタルeBookを使ってZoomで孫に読み聞かせをするおじいちゃんおばあちゃんもいますよ!
「ハーモニアス・バイリンガリズム(Harmonious Bilingualism)」
訳註:子どもとその親、家族が関わる複数の言語(ひとつの言語でも変種や方言など学校や社会の言語と異なる場合も含む)が使用される環境で、否定的な感情をもたらす要因に影響を受けることなく、家族のそれぞれが精神的にも感情的にも満たされている健全な状況
手遊び歌・わらべうた
この ウェブサイト では、日本語も含めていくつかの言語で手遊び歌・わらべうたの例が見られます。"pat-a-cake" は英語の一番有名なわらべうた (rhyme)です。
質問2:
うちの子は日本語はわかりますが、もうひとつのことばで答えます。子どもの日本語使用を促すために、わたしには何ができるでしょうか。
子どもたちは往々にして自分を表現しやすいことば、話しやすいことばを選んで答えます。お子さんと会話する中で、あなたの受け答えの仕方によって、お子さんが日本語で答えるように仕向けることができます。
- 子どもに日本語で話すように促す方法の一つは、子どもがもうひとつのことばで言った内容について、日本語で確認することです。(専門家は「expressed guess discourse strategy・推測を表現する談話ストラテジー」と呼んでいます)例えば、もしあなたが日本語で話しかけても、子どもが「I want juice.」と英語で答えたら、あなたは「もっとジュースほしいの?」というように、子どもが言ったことについて推測し、「それって、こういう意味?」と日本語で確認の質問をすることです。この質問に答えることは、子どもにとって難しいことではないでしょう。なぜなら、日本語で答えるのに必要なことば(単語や言い回しなど)は、その質問の中にほぼ埋め込まれているからです。お子さんが「うん。」と答えればそれで十分なことが多いので、結局のところあまりたくさん日本語を話すことにはなりません。しかし、このストラテジーを使用することによって、あなたは子どもが言えなかったことばを示すこと、聞かせることができます。
- お子さんにもう少し話すように仕向けるもう一つの答え方は「minimal grasp discourse strategy・最小限の理解を示すストラテジー」と呼ばれるストラテジーです。 基本的には、子どもが言ったことについて意味をはっきりさせる質問をするだけです。子どもが「I want juice.」と英語でジュースをくれるように頼んできたら、日本語で「何?」「え?」と聞くだけでいいのです。この質問は、日本語の自発的な使用を促します。なぜなら子どもは自分で適切な日本語の答えを考える必要が出てくるからです。(これは何語においても同じです。)
- 翻訳を求めること「request to translate」は、最も明確なストラテジーです。すなわち「ママだったら何て言う?」と言って、子どもに日本語に切り替えるよう促すことです。
もし子どもがとても小さい頃からこれらの3つのストラテジーを使って、日頃から対応するようにしていたら、またもし子どもにたくさん話しかけていたら(Q1参照)、お子さんはすぐあなたに日本語で話すようになるでしょう。
しかし、多くの場合、親は自分の子どもが使っていることばに注意を払うことがあまりありません。親自身がバイリンガルであることが多いので、子どもがどちらのことばを使っても親は理解してしまうからです。
- 親は多くの場合、子どもが楽な方のことばで話しかけてきても、自分のことばで子どもに返答します。(これは「a move-on strategy・先に進むストラテジー」といいます) しかし、会話を中断することなくそのまま話続けることにより、親が子どもに対してもうひとつのことばの使用を受け入れるというシグナルを送っていることになります。また、そのようにすることで、お互いが異なる言語で話す「二言語」の会話が永久に続いてしまうかもしれません。
- 親は子どもの話しやすいことばに切り替えることさえあります。(code-switching・コードスイッチング)しかし、子ども主導のことばの選択に従うことは、日本語を使う必要がないという印象を与えてしまいます。また、子どもが日本語を聞く機会を減らすことにもなってしまいます。
これら二つの会話ストラテジー(move-on and code-switching conversational strategies)は、子どもが日本語を使うように促すことにはなりません。それに対して、子どもに日本語を使うように働きかける最善の方法は、先に述べた3つの会話ストラテジー、1) 子どもが直前に発話した内容についてあなたが子どもの言いたかったことを推測し、日本語で質問する(the expressed guess)、2) 伝わらなかったふりをして子どもに日本語で言うように仕向ける(minimal grasp)、そして3) 会話の中で翻訳を求める(request to translate)です。
最後になりますが、子どもが言った文や単語を親が日本語に言い換えるだけでもいいかもしれません。(the adult repetition strategy・大人による繰り返しのストラテジー)。そうすることで、子どもは日本語で繰り返すようになるかもしれないし、反対にそうならないかもしれません。いずれにせよ、大人による繰り返しのストラテジーは、将来、子どもが日本語で会話するのに有用な語彙を増やすことに役立つことでしょう。
これらのような日本語で会話を促す談話ストラテジーを使えるようになるために、あなたは親として、子どもが今どのことばで話しているかについて意識するように努める必要があります。お子さんは日本語であなたと話していますか。それとももうひとつのことばで話していますか。お子さんがまだ幼くとも、子どもが普段どのことばを話しているかすぐによく気がつくようになります。だからお子さんが短い文を話し始めたその時から、日本語でコミュニケーションをする働きかけの談話ストラテジーを使い始めましょう。そして、一度その談話ストラテジーを使い始めたら、一貫性を持ち、揺るぎない態度で接することが大切です。はじめは少し大変かもしれませんが、一旦子どもが日本語で話すことを期待されていることを理解し、子どもが話すのに必要な語彙を十分に持つようになったら、それが習慣になり、慣れていくことでしょう。
それでは、子どもが日本語を使うように促すその他のヒントをいくつかご紹介しましょう。
- 日本語で話しているお子さんをほめることで、自分がいつだれに話すときにどのことばを選んで使うかについてもっと意識するようになるかもしれません。
- 日本語を話すパペット(a hand puppet)を用意するのも、お子さんに楽しく働きかける方法のひとつです。お子さんはあなたと人形の会話を観察して学ぶことができます。その上、日本語で人形とのお話を楽しむこともできるかもしれません。
- お子さんが日本語を学ぶ助けになる方法のひとつは、「ママは日本語でなんて言う?」というような質問を促すことです。
最後に、日本のおばあちゃんやそのほかの日本人が訪ねてきたとき、ことばの仲介者にならないようにしましょう。はじめはコミュニケーションを取るのが少し難しいかもしれませんが、お子さんがおばあちゃんと日本語で自分を表現する時間を十分に取ってあげるようにしたり、おばあちゃんにもそれを励ましてもらったりしましょう。
そして、もしあなたの初めてのお子さんとこのような有効な習慣づけができたら、それはあとに続く第二のお子さん、第三のお子さんのための習慣づけの基礎を築くことになるでしょう!
絵本の情報
こちらのページ には、日本語で読めるオンライン絵本やカナダで日本語の書籍を置く図書館の情報などが掲載されています。
参考文献(英語)
Nakamura, Janice. (2018). Parents' use of discourse strategies in dual-lingual interactions with receptive bilingual children.
De Houwer, Annick & Nakamura, Janice. (2021). Developmental Perspectives on Parents' Use of Discourse Strategies with Bilingual Children.
質問 3:
子どものバイリンガリズムをサポートするにはどのようなことができるでしょうか。例えば、赤ちゃんの頃、或いは保育園や幼稚園に通い始める頃など、それぞれの成長段階に応じて教えてください。
言語は人生の非常に早い時期、赤ちゃんが生まれる前から役割を果たしています。赤ちゃんはお母さんのおなかの中にいるときから聞いたことのあることばとそうでないことばについて、異なる反応を示します。 ですから、もし可能であれば、なるべく早い時期から環境を整えるようにすれば、赤ちゃんがバイリンガルの道を歩み始めるのはごく自然なことといえます。しかし、バイリンガルを育てることは旅のようなもので、子どもの成長に従って日々の習慣も変化していく(またそうであるべき)ものでしょう。
赤ちゃん期のサポート方法:
赤ちゃんへの特別な話し方(乳幼児向けの話し方:infant-directed speech)で語りかけると、赤ちゃんがことばを覚え始めやすくなります。
下記はすべて非常に有効な話し方です。
- 赤ちゃんに語りかけるとき、いつもより高い声で話す
- 赤ちゃんに話すとき、大げさな表情で話しかける
- かなりゆっくり話す
- フレーズとフレーズ(節と節)の間にかなり長い間を取る
- 短くて簡単な文を使って話す
- 文の一部を繰り返して話す
- 重要なことばを強調するためにゆっくり話す
- 非常にはっきりとわかりやすく話す
詳細はこのビデオ の14分以降をご覧ください。
多くの人はこのように自然に赤ちゃんに話しかけます。特に第一言語であれば(読者のみなさんの場合は、日本語であれば)、そのように話すことができるでしょう。しかし外国語であれば、それは難しいことでしょう。
赤ちゃんがことばがわかり始めたという兆しを見せ始めたら、短かくとも子どもを「会話」に参加させることが大変重要になります。つまりあなたは赤ちゃんに「実際に」語りかけ、赤ちゃんはうれしくて足をばたばたさせる、笑う、手を振るなど非言語行動で返すといった会話をします。あなたはすぐに赤ちゃんに合わせて、子どもの言語発達の成長に応じて会話ができるようになります。
乳児から幼児、園児、小学生になる時期(就学前)のサポート方法:
赤ちゃんが成長するにつれて、あなたはだんだん乳幼児向けの典型的な話し方をしなくなるでしょう。その上で、上記の質問の1と2の回答で提案したことを行うことに加え、以下のことについて考える必要があります。
ある時期に、お子さんは突然あなたと日本語で話さなくなることがあるかもしれません。これは、子どもたちの人生においての大きな転換期、つまり保育園・幼稚園や小学校に入ったときにしばしば起こります。ですから、私たちはこのような時期に特に用心をすること、またこのような節目に日本語で特別な注意を払うことをおすすめします。そうすることにより、receptive bilingualism(受容バイリンガル:子どもが引き続きあなたのことばを理解することはできても、話さなくなる)への移行を避けられるかもしれません。
お子さんがあなたのことばで話すモチベーションを持ち続け、励ますことが大切です。もしできることなら、バイリンガルを肯定的に考えている人たちや二つのことばを話すことをほめてくれる人たちに囲まれる環境で、子どもを育てましょう。それによって、お子さんは自分が特別な存在と感じ、より自信を持てるようになります。そして日本語で楽しめることをどんどん探しましょう。もし近くに日本語を話す家族がいたら、つながるようにしましょう。
また、お子さんたちのどちらもが流暢なバイリンガルであったとしても、兄弟の間では学校のことばだけでやりとりしていると気づくこともあるかもしれません。でも、どうぞ心配しないでください。バイリンガルの子どもたちは、環境によってことばを使い分けるのが一般的なのです。
HaBilNetのディレクター、アニック・デハゥワーは親たちに、子どもたちが保育園・幼稚園、学校に通い始めた最初の週の午後は仕事を休むよう、アドバイスしています。そうすることで、親は、子どもが園や学校から帰宅した後、すぐに子どもと十分に関わることができます。子どもは、とても疲れているでしょうし、頭の中は学校のことばでいっぱいになっていることでしょう。園や学校での一日について、もし子どもが学校のことばで話したかったら、話す機会を与え、ゆっくり休めるよう、また何か飲み物や食べ物を用意することをおすすめします。子どもが落ち着いたら、日本語で園・学校での一日について話し始め、子どもが日本語で知らないような園・学校関連のことばを与えます。次の日、子どもが日本語で学校での一日について話せるよう、それらのことばを覚えて使うよう促しましょう。子どもを励ますよう心して、学校のことばであなたに話したとしても、たとえそれがはじめてのことであったとしても、決して叱らないでください!お子さんが日本語で学校での一日について話すよう特別な努力をするか否かで、日本語を使い続けることに大きな差を生み出すかもしれません。
HaBilNetのディレクター、アニック・デハゥワーは繰り返し述べています( こちらの記事)が、園や学校で起きることは、バイリンガルの子どもたちが学校以外のことばを使い続けるために極めて重要だということです。もし先生たちが学校言語とは異なる親のことばを受け入れて尊敬する態度を持っていたら、また保育園・幼稚園や学校で、子どもたちが教室に持ち込むすべての言語に興味を持っていると示すような活動を積極的に取り入れたら、それは大きな力になることでしょう。親として、お子さんの保育園・幼稚園や学校の先生と、あなたの家族全員にとっての家族のことばの重要性について話し合いましょう。また園や学校がすべての子どもたちにとってのことばもサポートできること、その方法について話し合う必要があるかもしれません。こちらに その方法について書いた記事 がありますので、先生方にお知らせください。
おわりに
まとめになりますが、HaBilNetに相談を寄せた親や祖父母、親戚は、(1) どのように子どもの(学校で使われていることば以外の)ことばの発達をサポートしたらよいか、(2) どのようにすれば親が話しかけることばと同じことばで子どもが答えるようになるか、そして (3) 生まれてから就学するまでの異なる成長段階ごとにどのように子どもの言語発達をサポートしたらよいのか、について特に関心を持っていました。これらの質問に対する私たちコンサルタントの回答には、共通点がありました。それは、子どもたちにとって彼らの持つことばはすべて大切であると肯定される環境を作り出すことです。
たとえ一つでも、すべてでも質問をご覧になり、その回答や追加資料から何か得るところがあれば幸いです。「ハーモニアス・バイリンガリズム」の長い旅が、あなたとご家族のみなさんに幸せをもたらすものとなりますよう、願ってやみません。
こちらは 英語版(オリジナル) に記載されている記事の翻訳版です。英語版(オリジナル)には、日本語版では省略された英語の参考文献や資料が紹介されています。更に知りたい方は、どうぞご覧ください。